祖母の死
十月十二日。晴れ。休日。
朝、出先の母から電話があり、祖母が亡くなった旨を聞く。
九九歳の大往生なので、悲しさより、お疲れ様の気持ちを抱いている。
わたしは幼少時、かなりのおばあちゃんっ子だった。
痴呆症が進んだ結果、数年前から、祖母は家族を認識できなくなっていた。
あの頃、私の中で一度、祖母は死んでいる。
病院に会いに行っても、大好きだったおばあちゃんはいない。
忘れられることって、いなくなることと一緒だと思った。
それ以来、一度もお見舞いには行かず、今日がやって来た。
祖母の亡骸に会った時、自分がどんな気持ちになるのか想像がつかない。
思い出が蘇って、やっぱり悲しくなるのかな。
なるだろうな。
お葬式は三日後。
何かが起きた場合、すぐ事態に同調する本を読むと、流れにのみ込まれそうなので、あえて関係ない本をチョイスしたい。
午後は、やはりブックオフの100円コーナーで見つけたエッセイ「ニューヨークの魔法は続く」をのんびり読む。
- 作者: 岡田光世
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/01/10
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宮崎版「魔女の宅急便」で、キキが初めて、海に浮かぶ街に辿り着いた時のことを思い出す。
大都会だから、冷たい人もいれば優しい人もいる。
ニューヨークで暮らす人々は、良くも悪くも『相手のことはおかまいなし』だ。
自己主張の苦手な自分を後ろめたく思ってる人には、憧れの街になるのかも。
わたしはというと……、ニューヨークで生活するのはちょっと無理っぽいな。
のんびりしていて、適度な距離感があり、物静かな人々が好きなので。
夜が迫るうちに、ますます現実から離れたくなってきた。
こうなったらもう、物語しかない。
積読本の中から、米澤穂信の「ボトルネック」を取り出す。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/09/29
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あらすじを読んで、即買いした本である。
時間を飛び越えたり遡ったりする物語が大好物なのだ。
ボトルネックは、時間旅行というより、並行世界移動ものだったけど。
主人公は、ひたすら『自分が存在しなかった世界で起きた出来事』を傍観させられる。
行動を起こしたくないし、起こせない主人公っていうのは、作者的に扱いずらいだろうな。
と、余計な心配をしつつ、ミステリー調のストーリーに引っ張られて、ずんずん読み進める。
数時間で読了。
東尋坊を観光で尋ねる人がいるって、ちょっと信じられない。
わたしの住んでる場所から、樹海は車で20分ぐらいなのだけど、決して観光で訪ねようとは思わないもの……。
キーマン茶とサモワール
不意に思い立って、購入本記録兼書評兼日記をつけ始める。
長く続けたいので、ほどほどに。
力の抜けた日記になればいいなと考えている。
十月十一日。曇り。
いつもどおり七時に目覚ましをかけたが、疲れが溜まってきたせいでなかなか起きられない。
三十分間、アラームと格闘し、七時半になんとか起床する。
朝食はマーマレードのジャムを塗りたくった食パン。
仕事の合間の移動時間が一時間ほどあったので、磯淵猛の「紅茶の国 紅茶の旅」を読む。
- 作者: 磯淵猛,斎藤香織
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/07/10
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表紙の雰囲気と、もともと紅茶に興味を持っていたことから、手が伸びた。
ちくま文庫は基本の料金設定が高めなので、百円で入手できるのはかなりお得。
前半は、中国で最高級といわれるキーマン茶にまつわる記述が続く。
フルーティーで、花のような甘い香りがするらしい。
英国人はミルクティーにして楽しむようだ。
味を想像してうっとりする。
ピーピーケトルの元となった、サモワールに関する話が興味深い。
帝政ロシア時代、大流行したサモワール。
ロシアで紅茶を頂くときは、必ずセットでサモワールが登場するのだとか。
サモワールが登場した頃のロシアでは、中国茶は貴重品としてかなり高価な品物だった。
サモワールを持つこと、茶を飲むことは、上流階級のシンボルとされ、人々は限りない憧れを抱いた。
ロシアの小説家トルストイもこよなく愛したサモワールの起源が、中国にあったという説は面白い。
ところで、最近、帝政ロシアという単語にやたらと弱い。
荘厳で、ちょっと冷やかで、謎めいた雰囲気が漂ってくる。
おそらく、夢野久作の小説「死後の恋」の影響だろう。
何か帝政ロシアを舞台にした小説を読んでみたいな。