祖母の死

十月十二日。晴れ。休日。
朝、出先の母から電話があり、祖母が亡くなった旨を聞く。
九九歳の大往生なので、悲しさより、お疲れ様の気持ちを抱いている。

わたしは幼少時、かなりのおばあちゃんっ子だった。
痴呆症が進んだ結果、数年前から、祖母は家族を認識できなくなっていた。
あの頃、私の中で一度、祖母は死んでいる。
病院に会いに行っても、大好きだったおばあちゃんはいない。
忘れられることって、いなくなることと一緒だと思った。
それ以来、一度もお見舞いには行かず、今日がやって来た。

祖母の亡骸に会った時、自分がどんな気持ちになるのか想像がつかない。
思い出が蘇って、やっぱり悲しくなるのかな。
なるだろうな。
お葬式は三日後。
何かが起きた場合、すぐ事態に同調する本を読むと、流れにのみ込まれそうなので、あえて関係ない本をチョイスしたい。

午後は、やはりブックオフの100円コーナーで見つけたエッセイ「ニューヨークの魔法は続く」をのんびり読む。

ニューヨークの魔法は続く (文春文庫)

ニューヨークの魔法は続く (文春文庫)

タイトルに続くと入ってる通り、先に一冊出ているようだけれど、わたしにとっては、初対面の作者だった。
宮崎版「魔女の宅急便」で、キキが初めて、海に浮かぶ街に辿り着いた時のことを思い出す。
大都会だから、冷たい人もいれば優しい人もいる。
ニューヨークで暮らす人々は、良くも悪くも『相手のことはおかまいなし』だ。
自己主張の苦手な自分を後ろめたく思ってる人には、憧れの街になるのかも。
わたしはというと……、ニューヨークで生活するのはちょっと無理っぽいな。
のんびりしていて、適度な距離感があり、物静かな人々が好きなので。

夜が迫るうちに、ますます現実から離れたくなってきた。
こうなったらもう、物語しかない。
積読本の中から、米澤穂信の「ボトルネック」を取り出す。

ボトルネック (新潮文庫)

ボトルネック (新潮文庫)

これもブックオフにて100円でお買い上げ。
あらすじを読んで、即買いした本である。
時間を飛び越えたり遡ったりする物語が大好物なのだ。
ボトルネックは、時間旅行というより、並行世界移動ものだったけど。
主人公は、ひたすら『自分が存在しなかった世界で起きた出来事』を傍観させられる。
行動を起こしたくないし、起こせない主人公っていうのは、作者的に扱いずらいだろうな。
と、余計な心配をしつつ、ミステリー調のストーリーに引っ張られて、ずんずん読み進める。
数時間で読了。
東尋坊を観光で尋ねる人がいるって、ちょっと信じられない。
わたしの住んでる場所から、樹海は車で20分ぐらいなのだけど、決して観光で訪ねようとは思わないもの……。

魔女の宅急便 [DVD]

キーマン茶とサモワール

不意に思い立って、購入本記録兼書評兼日記をつけ始める。
長く続けたいので、ほどほどに。
力の抜けた日記になればいいなと考えている。

十月十一日。曇り。
いつもどおり七時に目覚ましをかけたが、疲れが溜まってきたせいでなかなか起きられない。
三十分間、アラームと格闘し、七時半になんとか起床する。
朝食はマーマレードのジャムを塗りたくった食パン。

仕事の合間の移動時間が一時間ほどあったので、磯淵猛の「紅茶の国 紅茶の旅」を読む。

紅茶の国 紅茶の旅 (ちくま文庫)

紅茶の国 紅茶の旅 (ちくま文庫)

この本は昨日、仕事の移動中にぶらりと寄ったブックオフで百円にて購入したものだ。
表紙の雰囲気と、もともと紅茶に興味を持っていたことから、手が伸びた。
ちくま文庫は基本の料金設定が高めなので、百円で入手できるのはかなりお得。

前半は、中国で最高級といわれるキーマン茶にまつわる記述が続く。
フルーティーで、花のような甘い香りがするらしい。
英国人はミルクティーにして楽しむようだ。
味を想像してうっとりする。

ピーピーケトルの元となった、サモワールに関する話が興味深い。
帝政ロシア時代、大流行したサモワール
ロシアで紅茶を頂くときは、必ずセットでサモワールが登場するのだとか。
サモワールが登場した頃のロシアでは、中国茶は貴重品としてかなり高価な品物だった。
サモワールを持つこと、茶を飲むことは、上流階級のシンボルとされ、人々は限りない憧れを抱いた。
ロシアの小説家トルストイもこよなく愛したサモワールの起源が、中国にあったという説は面白い。

ところで、最近、帝政ロシアという単語にやたらと弱い。
荘厳で、ちょっと冷やかで、謎めいた雰囲気が漂ってくる。
おそらく、夢野久作の小説「死後の恋」の影響だろう。
何か帝政ロシアを舞台にした小説を読んでみたいな。

トルストイも未読なので、有名どころ「アンナ・カレーニナ」辺りから手をつけてみようか。

瓶詰の地獄 (角川文庫) アンナ・カレーニナ〈1〉 (光文社古典新訳文庫)